2012年9月2日、別山・市ノ瀬登山道よりチブリ尾根にチャレンジした。
しかし、チブリ尾根に取り付いた所で登頂を断念、ゴールの避難小屋まであともう少しの所だったが、同行したかみさんの体力で下山することを考えたら、ここらが限界だと判断した。
かみさんとは3度目の山行だったが、その中で、今回が一番の距離と高低差だった。
写真の場所でピクニックシートを広げ、30分ほど休憩を取ってから下山を開始(12:50)
下山を開始して30分ほどのところで、突然雨がポツリポツリ…あれ?、と思っているうちに直ぐ本降りとなってしまい、慌ててレインウェアを着込んだ。登山道は、あっという間に川と化したが、その中を、バシャバシャと雨を楽しむ余裕があった。実際に楽しかったのだ。かみさんの表情も悪くなかったと思う。
しかし、雨を楽しんでいたのも束の間、緊急事態が発生した。
なんと、かみさんの足が急に動かせなくなってしまったのだ。
歩こうとすると両膝に激痛が走り、歩けなくなってしまった。
とりあえず、かみさんのリュックは自分が持ち、片手ステッキのスタイルから、自分のステッキをかみさんに持たせて両手ストックのスタイルに。
そして、ゆっくりと一歩づつ、急坂は、這うようにして、一歩、また一歩と歩いた。
時計を見ると、ここまでの一般コースタイムが1時間のところを既に3時間以上が経過していた。この時点で残り3.2km。とてもこの調子では、日没までに下山出来そうにないことが分かり、この瞬間、本気で遭難したと思った。そして、同時に、絶対に心配顔をかみさんには見せられないと思ってもいた。
「ゆっくりでいい、一歩ずつ、一歩ずつ、足を運び続ければ必ず下山出来る」と、かみさんを励まし続けるしかなかった。
この時、頭の中では、どこか野宿が出来そうな場所を必死で考えていた。そして、この先に、記念写真を撮影した大木があって、太い枝が登山道を覆っているところを思い出した。そこなら、雨を凌げるし、日没前に到達できそうな距離だ。
明かりはヘッドランプ1個とペンライト1個、今のうちに明かりを点検しておこうとペンライトのスイッチを入れるが点灯しない。
やばい、電池切れだ。
もし、ヘッドランプも点灯しなかったら...一瞬ドキッとしたが、こちらは大丈夫で胸を撫で下ろした。他にガスバーナー、ラーメン、水も十分にある。これなら野宿は何とかなると思った。
よし、あとは、かみさんが不安にならないようにと、ひたすら声を掛け続けた。
そして、ギリギリのところで大木の場所までたどり着くことが出来た。この時、もう、雨は止んでいた。
まだ日没前だといううのに、明かりがなければ一歩も歩けないほど真っ暗になっていた。自分の足下を照らして数メートル先まで歩き、振り返ってかみさんの足下を照らして一歩、また一歩、そしてまた、自分の足下を照らして数メートル先まで歩く...これを繰り返して、何とかここまで来ることが出来た。
ほとんど足が動かない状態で、このまま暗闇の中をヘッドランプひとつで下山するのは危険だと思い、ここで野宿する案をかみさんに伝えたが、かみさんはどうしても家に帰りたいと言い張った。
ヘッドランプで交互に足下を照らしながらの下山にも少し慣れてきた。このペースを維持出来れば何とかなるかもしれない。残す距離は、登山口まで1kmほどで、残りは林道1km程度だ。
何よりも、まだ、かみさんの気力が途切れていないようだ。
「よし、頑張ろう。あともう少しだ。」
iPhoneの登山地図アプリを使って現在位置を説明し、登山口まであと少しであることを理解してもらい、再び、下山を開始した。
自分の足下を照らして数メートル先まで歩き、振り返ってかみさんの足下を照らして一歩、また一歩、そしてまた、自分の足下を照らして数メートル先まで歩く...励ましの声を掛けながら、これを繰り返した。
いつの頃からか、遠くに大きな川の流れる音が聞こえるようになっていた。
あの音は? そうだ。あれは、登山口近くを流れていた川の音に間違いない。
「頑張れ、もう少しだ。川の流れる音が確実に近づいているぞ。頑張れ。」
既に登山開始から11時間以上が経過していた。かみさんの一歩一歩は、もはや、限界を超えた一歩一歩となっていることが痛々しいほど見ていて分かる。
頑張れ、登山 口の近くを流れる川の音が間近に聞こえるようになってきた、あともう少しだ、と励ましていたその時、 明かりを照らしたその先の視界が突然に大きく開けた。
あれ? 登山口? やったぞ! やったぞ! 無事に登山口に着いたのだ。
『よく頑張ったな、よく頑張ったな』と、かみさんを抱きしめていた。
結婚32年目、これほど刺激的な時間を共有したことは無かった。
足が直ったら、また、一緒に山へ行こう。
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